2010年5月9日日曜日

かっこいい映像とくクスっとするほろ苦さが

小津安二郎監督の映画のゆったりと流れる映像を久しぶりにゆっくり味わった。
巨匠の作品について大それたことは言えませんが、本日鑑賞した「秋刀魚の味」は遺作となった作品。
有名な「東京物語」「麦秋」「晩春」など前期のものは白黒でかなり昔の日本といった印象があるが、この作品はカラー作品で戦後の日本のとある家族の風景が描かれている。
小津監督の映画はその時代時代を丁寧な演出と映像で切り取ったような、趣がある作品で、観ていてしみじみする。



映像的にはオープニングの赤いラインが入った工場の煙突が並んだカットはかっこいいし、時代を感じる。そのほかにも(佐田啓二)と(岡田茉莉子)演じる長男夫婦の住む団地の風景。色や配置が視覚的にかっこいい。




ストーリーは、母親の死後、父の平山(笠智衆)が同窓生から娘(岩下志麻)の縁談を持ちかけられ、そろそろ嫁に出さねばと考えはじめ、決心をするまでの葛藤と娘が嫁に出て行くまでのお話。


通称ひょうたんと呼ばれる恩師を囲んだ同窓会では酔いつぶれた恩師を自宅まで送り届け、妻に先立たれた恩師が繁華街でラーメン屋を営み、嫁に行き遅れた娘には冷たい態度をとられている。
「孤独だよ」と酔っ払いながら寝てしまう恩師を見て平山は決心をする。
ひょうたんの店を再び訪れた平山は軍隊時代の部下に再会。その部下に連れられていったバーではそれを営んでいる(岸田今日子)がどこか亡き妻に似ていると感じ、軍艦マーチを聞きながら酒を飲む。





独特の淡々としたテンポとセリフ。登場人物たちのセリフにはどこかユーモアがあり、その中に垣間見れる人間味が絶妙なバランスで、自然に惹きこまれていく。

「秋刀魚の味」は最後に一滴涙が頬をつたう、ほろ苦いけどこころあたたかな映画。